Welcome To The Heartland

Back To The Street ふろむ診療所

Medicine Man

永く診察していながら突然しばらく姿が見えなくなる患者さんがおられる。

以前は2週間処方が主体であったので一ヶ月来院されないと、「あの患者さん最近姿が見えないね。誰かどうしてか知ってる?」という感じだった。政府の政策に素直に従う私の診療所では長期処方が増えてきたので、2ヶ月位しないと「行方不明か否か」が不明瞭になった。多くの場合、3ヶ月も来院されないと完全に忘れ去ってしまうか、「何か思うところがあって当院に嫌気がさして逃げたんだろうし、良医たるもの去るものは追わず。」で、患者さんの意思を最大限尊重し、無駄な心配をしたくないので忘れ去ってしまうようにしている。つまり、患者・医師関係が希薄になりプチ崩壊の様相を見せ始めている。数ヶ月先の患者さんの外来予約をとったり、内視鏡検査の案内状を定期的に送りつけるなどの営業上有効と見られる手段をとるつもりは全く無い。

70代半ばの頑丈そうなAさんは、かれこれ6年程、冠攣縮性狭心症と高血圧などで診察していた気の好い田舎のオヤジさんだが、今年2月を最期にプツリと来院が途絶えてしまった。10年来、前立腺癌を患って泌尿器科にも通院しておられたので、それが悪化して入院されたのかな?と6月頃までは心配していたが、最近は多忙なせいもあってスッカリ忘れていた。そうしたら、外来の待合室にヨボヨボと両脇から支えられて前屈みでヤット歩いているAさんの姿が見えた。一週間ほど前の事である。しかし、眼は虚ろでヨダレまで垂らしており、ドラキュラに血を吸われた廃人みたいだった。

幸か不幸か当日に限って外来は非常にヒマだったので、付き添いの奥さんと息子嫁の同席で久しぶりの診察を開始した。後の患者さんを心配しなくてユックリ話を聞けたのは幸いだった。

先日の腎臓疾患に引き続き、複雑な話で皆さんを混乱に落としいれるつもりではないが・・・

Aさんは当院初診以前はB病院循環器科に入院歴があり、心カテ検査CAGを受け「冠動脈は異常なし」だったようだ。しかし狭心症様胸痛が時々見られ、安静時からECGも虚血性ST変化らしき所見を呈していたので、一応スパスムVSAとして当院では定期管理をしていたが、体調は大崩れすることなく比較的安定していた。

Aさんは2月末頃、胃腸の調子が悪くなり、家にほど近いB病院を受診された。何故かいきなり入院となり、上部下部内視鏡、腹部エコーに各種CT、挙句の果ては久しぶりの心カテCAG検査までフルコースの検査を施行されたが「全く異状は無かった模様」で、逆に段々胃腸も悪くなり、そのため次々に循環器系や消化器系の処方が増えていき、あれよあれよと一ヶ月程で悪心・嘔吐と脱力感で立つのがヤットの状態になり、見かねた家族が申し出てB病院を退院する事になった。

無理も無いが、「脳神経がイカレタ」と心配した家族が、当地域の脳外科専門病院と名高いC病院の外来受診をさせたら、震えて歩けないAさんに担当医は「パーキンソン病」の診断を下し、それに対する処方と胃腸薬を追加したという。しかし改善が思わしくないので、近所の人に奨められたのか、やや遠方の小規模D病院を受診し、そこでも入院を勧められた。特に追加検査は無くベッド上安静が主体であったが、B&C病院の処方に更に精神薬らしきものが一時加わったようだが、症状増悪したため中止になったという。しかし増悪した症状は改善に向かわず、言葉が出にくくなり、自力で立てなくなり、ヨダレを垂らし、目の前が黄色に見え出し、食べても直ぐ嘔吐し、頭を上げて正面を見据える事が出来なくなっていた。それでも、気丈に処方された全ての薬はしっかり「薬と信じて」飲み続けていたようだ。

しかし、我慢も40日程で、見かねた家族がD病院に申し出て退院となり、自宅に戻って再びB病院循環器科外来に無理して通い始めたが、直ぐに体調悪化で予約日以外にB病院を受診。しかし担当医不在のため、とうとう8ヶ月振りに私の診療所に再び受診してきたという経緯である。でも、黙って他の病院へ受診したため私に合わせる顔が無いと、相当どうしようかと悩んだそうである。

Aさんは必死に喋ろうとしているが言葉は全く聞き取り難く、付き添う家族の説明からは、E病院泌尿器科の2種類、C病院の2種類、B病院の11種類の処方が並行してあり、一時はD病院から精神薬がこれに加わって計16種類をずっと飲まれていたようだ。2月までの処方は全部で6種類だったので相当内服薬が増えており、また類似薬・ダブり処方が多かった。

 

その後は、皆さんの御想像通りかと思う。

私は中毒症状と判断して、全15種類を4日間10種類に減らし、その後4日間7種類に減らした。案の定、日に日に症状は劇的に改善し、2月の80%程度には改善し、普通に会話が可能になった。ただ、B病院退院後のC病院でのパーキンソン病診断も副作用によるものかと私は疑っているので、近く抗パ剤も中止して全6種類にしてみようと思っている。

まだ、どう転回するか予断を許さないが、非常に激しい薬物中毒にさらされた不幸なケースではないかと思う。Aさん家族からすれば、B病院もC病院もD病院も田舎にしては比較的設備も整った、なにより入院設備の整った救急病院であったので、たった一人の医師しかいない無床診療所よりも信頼しやすかったのかもしれない。確かに普通はそうだし、無理からぬことと思う。

Aさんは元々B病院から転医されてきた患者さんだった。総合病院であるB病院の方がAさん宅から随分と近いし新築移転して綺麗で救急外来もあり入院も可能だ。どうして当院に6年以上も通い続けてこられるのか不思議なくらいだが、縁あって希望されて来院される間はキチンと対応したいと改めて思っている。

 

読んでくれてどうもありがとう。