Welcome To The Heartland

Back To The Street ふろむ診療所

H5N1  その⑤

勤務医と開業医が争ってる場合ではない・・・という前置きをした上で今日も恐い「H5N1」の続きです。 

 

先に当シリーズ①において、この小説「H5N1」に批判的な方の文章を公平を期して載せた。その中に「この作者は恐がらせ過ぎで最新知見が不足気味なので、東大医科学研究所のトップ研究者の意見も聞くべきだ・・」との指摘があり、そのお一人である河岡義裕教授の考え方を探してみた。

 

メディカルレビュー社の専門雑誌「インフルエンザ 2007 vol.8 No.3」に、「H5N1ウイルスの流行に備えて」という鼎談が載っていた。そこにはインフルエンザでは著明な臨床家の柏木・菅谷の両先生の考え方もあったが、実地臨床家の意見として興味深かったのは「地域のパンデミックプラニング⑫」という国立仙台病院の西村ウイルスセンター長の連載記事だった。これには僕が普段疑問を抱いている問題点の答えの一部が記載されていた・・・ 

 

新型インフルエンザ「H5N1」が致死率60%の強毒性ウイルスであると河村教授も考えている。不顕性感染は少なく、通常ウイルスに比べ初期段階での増殖が極端に強く、タミフルの必要量が多くかつ長期間投与が必要と考えている。更に、パンデミック時の医療従事者の場合にはタミフルリレンザの併用が必発する肺水腫の防止には必要で、2004年株で作成された現在政府が製作中のプロトタイプワクチンは効果が少ないだろうと心配されていた。政府や自治体の行動計画では「このワクチンを接種してタミフルは予防投与せずに診療に当たれ・・」という方向らしいが、「ワクチンは当てにせず、タミフルリレンザ併用で診察に備えよ」と奨められていると理解した。それには2500万人分の国家備蓄では完全に不足で、日本人では企業備蓄や個人備蓄も考慮すべきとの考えを披露されていた。

こうなると、岡田晴恵研究員以上に河岡教授の方が危機感を持っておられるようで、「恐がらせ過ぎは控えよ」という批判も的を射ていないように感じる。

 

実際に、その後にまとめられている各自治体の対応計画や本書のシュミレーションもこの流れに大筋で沿っています。 (以下、コピペ)

新型インフルエンザ対策指針案のポイント
.感染防止には、不要不急の外出をしないという原則をもとに、家庭も流行に備え、2週間程度の食料、水、日用品の備蓄をする。
.企業は、事業の一時縮小や従業員の自宅待機も検討する。
タミフルは、患者周辺への予防投与(1)を拡大防止策の柱とするが、拡大を押さえ込めなければ予防投与をやめ、入院が必要な重症患者に優先投与する。外来患者への投与にも①医療従事者、社会的機能維持の関係者②重症化のリスクが高い人③小児・高齢者④成人-と優先順位をつけた。

 

.国が準備中のワクチン接種対象は、医療従事者とライフライン(電気、水道、ガス、食料供給、交通などの関係者)、警察など社会機能維持関係者に限る。
.流行後製造するワクチンの摂取対象は、死者を最小限に抑えるために病人らを優先する案や、将来を考えて子供を優先する案など複数の考え方が示された。
.流行拡大で死者が多数に上り、火葬場の能力を超えた場合は、土葬も検討する。
 

今日は(2~4)に関しての話を少しだけしましょう。 

小説の中ではTVなどを通じて「不要不急の外出を控えるよう」呼びかけはされましたが、多くの人々にとって出勤や仕事は必要な外出に当たります。都心においても地下鉄網は格好の伝播媒体であり、外国からの航空機内も濃密な感染場所になり拡大は進行します。

最大の感染場所は想像通り医療機関でした。感染拡大で指定病院は直ぐに溢れ、多くの発熱患者が治療薬を求めて全ての医療機関に押し寄せます。病院でも診療所でも新型患者と通常患者の交叉感染の回避は不可能で、パンデミックワクチンは開発に1年近く(最短で半年)を要し、事前接種したプロトタイプワクチンは効果が少なく、タミフルも国家備蓄分が医療従事者にすら思うように行き届かず、多くの病院や診療所の医師や看護師が玉砕のように死んで行きます。そして医療従事者の中には出勤せずに開業医単独で押し寄せる患者に対応する場面も出てきます。借金を抱える開業医は無念のまま死んで行きます・・・・。

 

現在の行動計画でも感染者が通常の医療機関を受診する事は止められないようです。この時期皆さんは何人の発熱患者を診察しましたか?今日だけでも10人以上の発熱患者を僕も診察しましたが、新型の初期症状が区別できるでしょうか?実際に新型が出るまではタミフルは予防投与せずに(効かない)ワクチンで頑張って戦え・・という国のスタンスでは実際の現場では明らかに危ないので医療従事者は長期間の予防投与を患者が発生前でもすべきであり国も備蓄分を医療従事者に回せ・・と仙台の西村医師が主張されている。

西村医師の実際的な感想としては、命を犠牲にして医師と看護師が無防備に診療に当たる事を強いる事は無茶で、「インフルエンザお断り」とか「諸事情でしばらく休診」という診療所が続出するだろう・・と想像されている。パンデミック時に自身が感染する事は容易に想像でき、「医師が命を惜しんで逃げないように高い報酬で可愛がれ」と主張されている。高い報酬と言っても「凄い借金」を家族に残して死ねるか?という問題が開業医には存在し、徴用するなら借金を帳消しにするなどの思い切った方策をとらない限り現場放棄しても批難できないと思われる。最近の医師叩きを見る限り全く期待は出来ないし、逃げるがマシと思うかもしれない。

また、診療所の医師と看護師は混乱するであろう診療所を完全に閉めて地区の「発熱センターで初期診療」という名のトリアージに専念してもらったらどうか?と提言されていた。それには「医師や看護師の家族の面倒を誰が代わりに見るのかということもサポートしないと家族を放置しての患者診療は無理だろう」と意見を述べてあった。

確かに診療所や病院外来には「発熱センターへ行かない発熱患者」が沢山押しかけて他の多くの病弱な通常患者に新型インフルエンザを感染させまくるはずなので、むしろ休診にして野外の発熱センターでトリアージに専念した方が自身の命は安全だろう・・と言う考えは一理ある。

しかし、僕の様に「透析施設」は一体全体どうするのであろうか? 広い透析室の中で患者が一人居れば恐らく透析患者は全滅するだろう。指定感染症病院の陰圧室に透析装置は置けまい。新型が疑われる透析患者は何処で誰が診るのか?見殺しに出来るのか?透析では看護スタッフが不足すると透析が出来ないが、パンデミック時にスタッフの確保が出来るのか?足りずに透析が危険になったら中止するのか? それでも無茶してまわすのか? 透析学会などでパンデミック対策をしているなんて聞いたこともない。数週間の自宅待機が透析患者に出来るわけないのに対策はどうするのか?

先程の借金の件も治療中断による患者の死亡の件も、法的な問題はどうするのであろう? 命を捨てても治療に当たれ・・と言われても、自己破産してでも刑務所で服役しても生きていたいと考える医師も多いのではないか?全力で治療に当たりながら患者が死ぬと告訴される日本の現状から言って、非常事態だから逃げてOKという判断が簡単に下るとも思えないが、医師も人間であり家族に借金を残しては死ねないのではないか?

借金は生命保険で弁済可能なのか? 地震保険での状況を見てみると判るように、パンデミックで64万人が一度に死ねば生命保険が満額支払われない可能性も少なくない。

西村医師も危惧されているように、具体的な事態を考えた場合、やる気の無い役人は、法的整備を怠り、アレはダメこれはダメと言い出しかねない。 

 

小説の中の医師達は自己犠牲で次々に倒れて行った。経済は崩壊し、国家の危機もリーダーシップは相変わらず発揮されない。医師達に見える危機が役人には見えないらしい。対策が全てにおいて後手後手にまわり現場の声や要請は届かない。開業医の息子が大学病院から呼び戻されたが、自院の床に倒れる両親の最後を看取って患者を診察する自己犠牲・・・しかし感染拡大は止まらない。

僕は「発熱センター」が上手く機能して通常の外来に新型インフルエンザ患者が現れないとは全く思えない。むしろ通常以上に多くの発熱患者でクリニックの待合室は溢れると思う。N95マスク一つをとっても長時間の使用は苦しい。空気感染するかしないか、岡田研究員と河岡教授の意見は少し異なっていたが、空気感染ありなら・・・多分多くの医師はアウトだと思う。

 

タミフルパンデミック終焉までの半年間のみ続けても害が恐そうだが・・・パンデミックワクチンが出来るまでサバイバルできますか、皆さん?

 

次回は(5)以降を続けて書きたい。

 

読んでくれてどうもありがとう。