Welcome To The Heartland

Back To The Street ふろむ診療所

歌えない 歌わない

先の日曜日、妻と博物館にCameo の展覧会を見に行った。思いのほか大盛況で、人々は何を求めて既にヴィンテージとなったCameo を見に来るのか色々思わずにはいられなかった。僕自身は一体全体いくらするのか?そればっかり考えて、いずれは妻と娘たちに買ってあげようかな~と思って眺めていた。

『これ、いいね。500万円位で買えるかな?』

『え? 何言ってるの、最低でも桁が違うわよ。良いのは億の価値するはずよ』

『そんな・・・ 個人蔵って書いてあるのが沢山あるよ。ま、1000万円くらいなら死ぬまでに買ってあげるよ・・・忘れなきゃね』

『なんでも死ぬ前に・・・ね。もう何度聞かされたかしら?』

   

世の中は今や大不況、恐慌とも形容される未曽有の経済危機を迎えている・・・ハズである。ユダヤ資本家も英国王室も同様に困惑しているとか・・・。我が家は幸いにも 仕事も住まいも温かな家族もあって、何とか子供達の前では平静を保っていられるが、当然ながら将来への不安が僕の脳裏からも離れることはない。

先の大恐慌の時代、「金」は資産価値を堅持したものの、ダイヤモンドをはじめとする宝飾品の価値は暴落したという。それでもヴィンテージ物の価値が普遍に続くという想いは人々を酔わせていることからも窺えよう。でも、僕にはそんなお金が余ってるハズもなく、博物館でガラス越しに行列しながら眺めるしかすべもなかった。

 

その日の夕食はクリスマス前の家族でのレストラン・・・ 僕の仕事で今度家族で揃うのは年を越えた元旦になる。毎年のことだが、僕は大晦日の夜中まで仕事・・・今さら嘆く気はないが、医療者が年末年始も必死に働いて税金を払っていることも少しは理解してほしい、マスコミ様には・・・

 

お金では買えない価値の家族の団欒、平和な冬の日の一日が過ぎようとしていた。気分がよかったのか、帰りの車内で、子供たちが聴きなれたフレーズを繰り返し歌う・・・ 同じ先頭部分だけ、何度も何度も。余程、気に入ったフレーズなのであろうか?

  I love you 今だけは悲しい歌聞きたくないよ

  I love you 逃れ逃れ 辿り着いたこの部屋 ・・・

妻 「あれ? それ知ってるの? 誰が歌ってるの?」  子供達 『CMだよ』

「CMは判るけど、誰の?」   『知らない・・』

尾崎豊だよ。知らないで歌ってるの?」  『尾崎の代表曲って何?』

「それだよ。ところで、佐野元春の歌は歌えるの?」  『知らない・・』

「パパ・・ 元春って全く人気ないわね。サムデイ、歌ってみてよ、パパ・・・ ねえ、歌ってよ」

妻と子供達の会話を聞きながら、「尾崎より佐野が格上だ。尾崎は佐野を追っただけだ。でも、パパは尾崎も傍で見たことあるよ、野外コンサートの救護班でね・・」と言うのがやっとだった。確かに佐野の歌は子供達には知られてない。

『え~? パパって佐野元春の追っかけだけじゃなく、医者もしてたの?』  「違うわよ、押しかけ医者よ、それも一回だけ・・ ね、パパ、サムデイ 歌いなさいよ」

妻は何故か車内で僕に「サムデイ」を歌わせようとする。しかし、僕は絶対に歌わない。僕は誰の前でも佐野の歌は歌わない、穢してしまうのが怖いから・・・ 歌うものか・・・ 死んでも歌わない・・・

 

どうやら、くだんの尾崎の歌は他の人が歌って「車のCM」でTVで流されているらしく、今とっても女子高生・中学生に人気だという。  

でも実のところ、僕はハラハラしながら子供らの歌を聴いていた。あ~困ったものだ、頼むから先を歌うな・・・ 

幸いにも、壊れたレコードのように歌は先には進まない・・・ 会話を流れを変えようと必死に努力する健気な父親がそこにいた、別に尾崎が悪いのではないが・・・

   きしむベッドの上で 優しさを持ちより   きつく身体 抱きしめあえば・・・・

子供らが歌うには刺激的すぎるフレーズ・・・ まだ子供なんだから歌っちゃダメだ。

 

お金は無くても、宝飾品は無くても、温かな家庭がある僕は幸せなのであろう。カメオ も ティアラ も・・・そんなもの無いけど不幸ではない。家族旅行も出来ないけど、特に悲しくもない。ただ、マスコミの医師イジメの風潮には悲しさを感じる。

いつ患者に呼ばれても対応できるようにとお酒を辞めてからどれだけの年月が過ぎたのだろう? 忘年会で酒に酔う人々を眺め、酔われて身体を壊す患者を診察して・・・僕も普通に過ごしたいと少しは思う。しかし、酔っ払っては急患は対応できず、酒は避けるしかないようだ・・・

  患者のために酒は飲まない。

  佐野のために佐野は歌わない。

自分で決めたことだから、今では当然のこととなっている・・・

 

読んでくれてどうもありがとう