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モラル & 危機管理

いよいよ17日から 恐怖を煽る様な「感染列島」という映画が封切られる。強毒性の新型インフルエンザ、H5N1型がモデルなのだろう、関連番組が最近沢山眼につく。

そして、医学的な講演会や医師会の方でも季節柄取り上げる機会も多いようだ。ごく最近、某医学系雑誌にこんな文章が某外科医から寄せられた。医師会幹部の意見を代表するのかどうかは知らないが・・・

『それぞれの事情があるとしても 医師のモラルとして 自分が感染して死ぬかもしれないと新型インフルエンザの患者を診療をせず 籠城して閉じこもるのは とても容認できない・・』

なんと崇高な言葉だろう。僕はこの外科医を少し知ってて、個人的には尊敬すべき魅力ある医師だと日頃思っているが、ちょっと暗い気持ちになった。

 

 

この外科医は子供達も医学部を卒業して子育ても一段落し、財産はあっても 医業のための借金もなく、年老いた両親を抱えてもいない。毎年一週間程度の連続休みが自然にとれる幸せな二代目開業医の一人であろうと思われる。その状況には誰もが憧れるだろう・・・絵にかいたような開業医だ。

 

対する僕は、子供達はまだ中学生で、財産どころか開業に必要な借金がいまだ一億円近く残り、年老いた両親を抱えている。正月も盆もなく、開業以来 日曜以外の休みは一日も無く夜まで働き、その日曜すら しばしば急患でつぶれてしまうという過労死基準合格の生活を送らざるを得ない新規開業医。絶滅危惧種で憐みの眼で見られていそうだ・・・氷河期を生きる開業医だ。

 

そりゃ僕だって、地域住民のために命を投げ出して新型インフルエンザの最前線で戦いたいと思わなくはない。ただ、職員の看護師たちにまで同じ運命を背負わせるのか? 彼女らが死んだら誰がどう補償してあげるんだ? 使用者たる僕には到底補償する余裕などない。

 

生命保険会社に勤める友人に聞くと、「新型インフルエンザで数万人も死んだら、約款に書いてある通り、災害や疫病だから 加入者がもし死んでも まず死亡保険金なんて払われないよ、払えるハズないじゃん・・」との答えだった。

 

先に「モラルだから 個人の事情など関係なく 死んでも闘え」という某外科医の意見を紹介したが、死んでも家族がさして困らず借金もない医師と 借金だけを中学生と老人に残して死ぬ医師とを 「モラルだから犠牲になって死ね」と言われて一緒にされても実は困るのである。

「不要不急の外出は避けよ」、「欠勤者を40%として行動計画を」とか言う割に、闘う医師や看護師への配慮がおかしなことに全く議論されていない。公務員なら生命保険が出なくても国家補償や恩給などで残された家族は生きていけるであろうし、公務員をする上での借金はいらないはずだ。民間(新規)開業医は医業のために多額の借金を抱え、死んでも国家補償など期待できないであろう。せめて借金ぐらいチャラにしてもらわなきゃ、闘って死んでも死にきれない。軍人恩給を貰う神風特攻隊より悲惨だ・・・ 

 

危機管理という言葉、医師のモラルという言葉・・・非常に虚しく響く。

モラルで死んでも借金は消えない、モラルで死んでも遺族は救われない・・・

個人の危機管理、従業員の危機管理、医院の危機管理・・・「モラルに殉死することが医師の危機管理」だとは到底思えない。

 

生命保険の死亡保険金が支払われない、ということを前提に行動計画を立てないと、モラルの名のもとに悲惨な犠牲者が大量発生すると 僕は暗い気持ちになっている・・・

 

読んでくれてどうもありがとう