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【風花病棟】

尊敬する帚木蓬生先生の新しい本が出ました。【風花病棟】というタイトルの素敵な短編集です。この十年間、先生が毎年「小説新潮」に寄せられていた作品を十篇、年代順に並べてあります。その意味では新作ではありませんが、ちょうど開業医として同じ十年間を過ごしてきた僕にとっては時の流れを感じる事の出来る構成に感謝さえしています。

 

十年前には無かった「准教授」とか「助教」などという単語が出てきますから、刊行に際して少し手直しされているのでしょう。新臨床研修制度とか診療科の偏りとかロボット手術とか医局制度とか色々と登場します。ゆっくりとですが、それでも十年間の時の流れは自然に感じられます。

 

 医局の人間関係の素晴らしさと へき地医療への貢献・・・

 がん告知の難しさと 余命の過ごし方にたいする想い・・・

 患者想いの泣き虫研修医が 後に乳癌になって感じる想い・・・

 田舎の開業医と 後を継がず東京で暮らす息子の眼科医・・・

 米国の学会で発表する元軍医が思わぬ再会を果たす話・・・

 顔面を全て病気で失った元スッチーの診療に当たる元同級生・・・

 

などなど、10人の様々な医師の様々な日常診療の姿がいかのも帚木風に描かれているが、勤務医に混じって最後に一篇だけ開業医が登場する。それも、引退して田舎にリタイアしようとする開業医の姿が・・・ ちょっと、将来を考えジ~ンとしてしまう。

 

帚木先生の本の中では、【安楽病棟】の前半部分になんとなく似ているが、認知症患者の姿を描いたそれと異なり、医師の仕事と感情の揺れ動きが実に自然な感じで描かれている。福岡県を中心とした背景と、適度に組み込まれた方言が 登場する医師たちを更に人間臭くしていると思う。

 

壊れゆく医療現場と医師・患者関係などが最近の十年間に非常に変わったとされるが、訴訟問題さえなければ医師・患者の良好な人間関係は今でも素晴らしい形で築き上げることができると僕は感じている。先生の【風花病棟】も医療現場における様々な素敵な日常を描いていて温かな気持ちを蘇らせてくれる。

医療現場のごく日常の中に、先輩方から受け継がれたより良き医療のためのヒントが転がっていて、医師になって何年経とうと僕らを助けてくれる・・・

医学的な診断だけでは不十分で、多くの場合には社会的な診断技術が僕らには要求されていて、出来る限り応えていけるように幅広い人間性を身につけていくべきかとも思う。

 

この本はすべての医師の皆さんに是非読んで欲しいのであるが、実は患者さんや病気に縁のない健康な人々にも「医師もまた生身の人間の一人だ」ということが読めば分かってもらえるのではないかと思う。

マスコミや 政治家や クレーマーや モンスターの皆さんにもぜひ読んで欲しいと思うのだ。そうすれば崩壊の危機に瀕している医療も もう一度立ち直るのではないかと なんとなくだがそう思う・・・

それにしても、帚木先生がこの十年間にこのような珠玉の短編を発表し続けてあったなんて・・・改めて凄いと思う。

 

読んでくれてどうもありがとう