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【 銀嶺の人 】 と 新田次郎

新田次郎原作の映画 【 剱岳:点の記 】のせいか、この夏は何となく「山の本」を手に取る機会が増えた。もともと小学生のころから国内外の山岳小説をよく読んでいたのだが、実際に高い山を登った経験はなく、知識はそこそこあっても危険な場面の想像がつかない。そうこうしている間に、本格的な山登りが出来ない身体になってしまった。

そこへ先頃の大雪山系トムラウシ山での大規模遭難、ますます「山の話」に中年医師の心が向かう。中高年の登山熱・女性の登山熱・ツアー登山・異常気象・・・、高くても低くても、日本でも海外でも、やはり登山とはその魅力の裏に常に危険性を含んでいるらしい。

  

この本 【 銀嶺の人 】 も新田次郎の作品である。主人公的な淑子のモデルは医師でもある今井通子、世界的女性クライマー(アルピニスト)の草分けである。他にも加藤滝男・保男兄弟、若山美子など非常に魅力的な登山家がかなり実際に近い形で次々に登場している。どの人も非常に魅力的だ。

  

今井・若山の【女性パーティーによる世界初のマッターホルン北壁登頂】、今井・加藤滝男を中心とした【アイガー北壁直登(青い点線が1969年の直登ルート)】、今井の【女性初のアルプス三大北壁完登(グランドジョラス)】などがメーンイベントとして話は進んでいく。長い作品だが、一瞬も飽きさせずにグイグイ惹きこまれていくのはなぜだろう?

  

幸い、これまでの人生で アイガー・マッターホルン・グランドジョラスの三名山は拝んだことがあるし、それぞれの登山基地となる街にも馴染みがあるので、場面場面を想像しながら読むことが出来た。特にシャモニーの街や、若山が落雷で山頂付近で死亡するドリューなどの針峰群なども僕自身が新婚旅行で訪れたので思い出深い。

  

そして、医師である今井の仕事ぶり・勉強ぶり・成長の過程・・・これらも凄く身近なものだったから、僕にとっては心に残りそうな作品の一つとなりそうだ。それにしても、今井通子さんは凄すぎる。医学部で同級生として過ごしてみたかった・・・女子医大だったらしいが。

   

どこまでが事実かわからないが、男勝りの淑子が医大に進み、谷川岳で学び、アルプスへと挑む姿・・・こんな女子医大生の姿なんて今どきありえないだけに感動してしまう。

 

中高年の登山が盛んだが、作品の中で繰り返される言葉がある・・・・『若さでしか克服できない、今でしか達成できない登山がある』 (少々あいまい)

医学部を出て医師国家試験に合格直後に挑んだ「マッターホルン北壁」、今でいう研修医の時期に挑んだ「アイガー北壁直登ルート」・・・医師・今井にとって「若さ」と「技術」と「仕事」と「経験」とがベストマッチした一瞬の晴れ間だったのであろう。そういった誰にでもは得難い最適な時期を逃さず偉業を達成した精神力と実行力・・・到底真似できるものではない。

 

ただ、非常に興味深かったのは、全てが完成した時期にあった結婚後の淑子と若山の二人。ほぼ同時期に登山家同士で結婚して「グランドジョラス北壁」と「ドリュー西峰」に挑み、どちらも夫婦でのザイル登攀が非常に精神的に困難になったことに気付く場面・・・死の危険に直面する機会が多いだけに、夫婦登山とは凄くデリケートで難しいのだと感じた。

このことは、今度のツアー登山におけるメンバー構成が単なる寄せ集めで、あの天候の様な危機的状況で凄く大きな影響をメンバー全てに与えかねないのではないかと改めて思う理由にもなった。登山においては「メンバー構成」は凄く大切だと思う。

 

数々の名作を世に残した新田次郎氏はアイガー北壁を望む場所に遺髪を埋める形で眠っているという。かなり前にアルプスを巡った日々を綴った本を出しているが、羨ましいと思うと同時に、相応しい・・・と感じた。

 

この夏はまだまだ沢山の「山の本」を注文したので、涼しく過ごせそうだと思う。そして、診察室の中にいながら アルプスでの夏休みを満喫できそうだ・・・

 

読んでくれてどうもありがとう