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Back To The Street ふろむ診療所

医者の神頼み

今夜23時に診療所から帰宅した。家には父親と母親がテレビを観ながら僕の帰りを待っていた。

『良かったね、転移がなくて・・・』 と声をかけたが、苦笑しながらも両親はホットした雰囲気だった。

 

今日、ある病気で父が大学病院に精密検査の結果を訊きに行った。行く前に僕の診察室に立ち寄って、緊張した面持ちで 『今から行ってくる。死刑宣告かもしらんが、(お前が見つけてくれた時に手遅れだったとしたら)まあしょうがない、じゃあな・・』 と言う姿はいつもの元気が見えなかった。僕は忙しくて、『うん』と云うだけだった。まあ、転移だけは無いだろうと見積もってはいたが・・・

 

余程嬉しかったのであろう、診察室を出たとたんに電話をしてきた。詳しい説明は覚えてないが、とにかく「遠隔転移」だけは無いらしい。両親もそれだけ聞けば良かったのだ。僕もまた然り・・・遠隔転移があれば僕の責任だと感じただろうから。

 

父は80歳を過ぎたとはいえ元気に生活を楽しみ仕事も楽しんでいるが、やはり人間、色々とガタを抱えながら生きている。そして、僕は医者であると同時に病人の息子でもある。ましてや今回は「がん患者」の家族でもある。

よく「医者には病人の気持がわからない」・・と批判を受けるが、気持も病気の内容も、場合によっては将来の運命も実は良く判っている。ただ、患者と同じ感情で生活すると、例えば月間に1000人の異なる人生を共有・共感して同情までしていては精神的に到底もたないから、自身が潰れないように精神状態を少々コントロールしているのだと思う。だから、時々 どなたかの病気に感情移入した時の医師のあわてぶりもまた軽くないものとなる。

 

一応、職員や患者さんの手前、家族の癌であってもポーカーフェイスを保っているが、やはり家族を「主治医」として診ていくのは簡単ではない。

僕が開業して以来 いままで、父は2種類の癌と 冠動脈疾患と いくつかの慢性疾患を患ってきたし、今も僕が管理している。最初の癌の時はショックだったが、内科と外科の信頼できる先輩や同僚に相談しつつ手術をしてもらった。

癌で手術の際も、冠動脈への侵襲的治療の際も、僕は通院患者さん達の診療で父親の安否を案じている暇や余裕はないし、担当医の説明も聞きに行けたことはない。「インフォームドコンセント」など受けたこともなければ 期待したこともない。担当医に対して、そして我々が共有する現代医学のレベルを信じ身をゆだねるだけ。うまくいかない時は「それは運命・・」と、自分の家族の場合には割り切って考えている。

 

そんな僕も、一応 人間らしく縁起をかつぐことがよくある。今度も僕が癌を疑い出した時に比叡山に登って「病気快癒」のお守りを授かってきた。ちょうど入院していた父には見せず、我が家の仏壇に供えて、ご先祖様に一緒に祈ってもらった。

そして、今夜初めて父に 『僕が比叡山からお守りを貰ってきたのが良かったんだ・・』 と言うと、父は 『俺が今朝、仏壇にお参りして行ったのが良かったんだ・・』と云う。まあお互い、どっちもどっちであるが、およそ医者らしからぬ「仏頼み」である。

 

およそ医者らしからぬ、というと、最初の癌の大きな手術の前夜、僕は居たたまれずに何故かパチンコ屋さんに入り込んだ。一人にはなりたいが雑念は払いたい・・・という心境にピッタリという場所。そして、何故かこう考えた・・・「もし勝てば手術は成功、負ければ・・・?」

なんという大胆な「運頼み」だろう。パチンコの勝つ確率は半分もないハズ、負ける可能性が明らかに大きいのに・・・・ だが、「大勝ち」してしまった。どんどん出て、閉店時間になっても連続で「大当たり」がやまなかった。そして、翌日、父親の手術は無事成功して患部を充分に取り去った。

 

医学には限界もあって、人間の身体は機械でもない。診療を担当する医師達も色々な意味で差異があり、患者との相性すらある。診断のタイミングや併存する病態にも左右され、場合によっては運ばれた病院や時期にも、あるいは住所にも発病時刻にも大きく左右される。そいて、それらを全て包括して患者の診療に全力で当たる・・・でも、だめな時もある、それが医療。

 

僕は眼の前の患者さん達に悪性腫瘍が見つかったときなどにも、あるいは重症の循環器疾患が見つかった際にも、不謹慎ながら秘かに心の中で「神頼み」などをしていることがある。

医師の「神頼み」は不適切かもしれないが、医学の限界を超えた力に頼りたくなる場面は臨床医をしている限り全ての医師にあるのではなかろうか? もしかすると、一般の患者さんより、「神頼みの頻度」は多いかもしれない。

 

まあ、父がもう少し長生きしてくれそうで 僕も今夜はなんとなく嬉しい・・・

 

読んでくれてどうもありがとう