Welcome To The Heartland

Back To The Street ふろむ診療所

涙もろくなりました

ある女性の患者さんが息子と一緒に診察室に入ってくるなり 『先生の顔がハッキリみえるわ。先生ってこんなに綺麗な顔してたんですね・・』とにっこり笑う・・・

杖をつく上品なその女性は96歳、息子は74歳であるが、つい先ごろ白内障の手術を済ましていたのだ。そういえば近所の眼科の医師から 「全身状態はいかがでしょうか?」という医療連携用の手紙に返事を書いたことを思い出した。

 

「大丈夫ですよ・・・ 大動脈瘤が10年前に破裂しかかりましたけど、今はすっかり安定してますから・・・ 手術お願いします・・・」と無責任な返事をしたためながら10年前の当番医の時に初診で飛び込んできたこの患者が大動脈瘤破裂でショック状態に陥って救急車で大学病院に搬送し奇跡的に助かったことを思い出していた。あれから10年、途中で胸膜炎で入院したこともあったが、96歳ながら一切のボケも難聴もなくただ膝関節症と白内障があるだけで血圧管理をしてるだけだった。

『そうですか? 若い頃はこれでも女性によくモテタンデスガネ・・・』と冗談言った後、『せっかく手術して視力を取り戻したんですから後10年以上は生きなきゃですね・・・』と言うと、患者さんも満足そうに、『来月、姉を訪問しようかと旅行を計画しています』と言うではないか。いくつの姉なのかまでは聞きそびれてしまった。

 

と言うのは、僕は急に言葉に詰まってしまったのだった。両手で脈をとりながら黙ってしまい、不覚にも涙が出てきてしまったのだ。しばらく脈をとり足の腫れを確かめ膝の痛みチェックしながら場違いに溢れてくる医者の涙を患者に気づかれない様に苦労した。誰も僕が泣いていたことに気付かなかったようだ、ありがたい・・・

 

最近の僕は色々と多忙で苛立ってしまい、職員に大きな声を出したりで自分で自分が恥ずかしくなる振る舞いばかりしていて、多くの職員から心配されていたのであるが、この一度は死にかかった患者が96歳になっても希望を胸に生きようとしている様に急に頬っぺたを打ん殴られた様な気がしてしまったのである。とっても恥ずかしくなってしまったのである・・・俺はまだまだ若造なのに何を偉そうに頑張るスタッフに当ってばかりなのだろうか?

やっとの思いで顔を上げ、言葉少なに『まだまだ暑いので熱中症やクーラー風邪に気を付けてください』と声をかけるのがやっとであった。

涙もろくなってしまった・・・

 

読んでくれてどうもありがとう