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Back To The Street ふろむ診療所

開業医の憂鬱

今日は学校の先生で「初期のウツ」の方が来院された。

多分ウツと思う、きっとウツだ、ウツに違いない・・・。新学期が始まって管理職ともなるとウツになろうというもの。軽症ウツは動悸が主訴だったりで循環器科に来院されることが少なくない。20分ほどかけて診察したが、その間にカルテが10冊ほど積み上がってしまい看護師の咳払い(の合図)に急かされてしまった。もっと詳しく説明とか対処法を伝授したかったが、待ち時間が長くなって他の患者に文句言われると僕がウツになるので仕方なかった。しかし、診察室を出ていく時は充分に納得し疑問も晴れたみたいでニコニコ感謝されて少々嬉しかった。

 

診療に関する話で言うと、心房細動の診療も最近は悩ましい。

有名な先生が最近は「心房細動はそのまま受け入れて除細動はあまり試みずにワーファリン管理をしとけばいい・・でも、そのワーファリン管理はキッチリね・・・」という意味の流れを作り出してるので、開業医レベルで心房細動を院内で薬物的除細動する意欲が急激に減退している。

かつては様々な薬物を駆使して心房細動の除細動をどれくらい狙いどうりに成功させるかが循環器専門医の匙加減の見せどころだったと思うのだが、塞栓症の危険性が凄く強調され除細動を試みる医師が減り、その流れで薬物的除細動の芸術的な匙加減が出来る医師が急速に減っていると思う。指導することが出来なくなると習う方は更に単純化して行っていずれは薬物的除細動は無くなるのであろう。

先日、ある循環器専門医の不整脈の話を聞きにいったら、その心カテ専門医は・・・(自粛)

 

 

さて、その心房細動・・・・

内視鏡検査・治療や手術時、更には高齢者の喀血や下血時などの対応に非常に悩まされる。さすがに抜歯の際は悩まなくなったが、ワーファリン管理は楽じゃない。

僕の所はワーファリン管理下の患者が100人以上いて毎日PT-INR 検査を 5人以上はコンスタントに行うのだが、そのうち30%近くは数カ月に一度はワーファリン量の変更をデータをもとに即日行っている。これも微妙な匙加減ではあるのだが、予想を越えた変動も少なからずあって、その外れたデータをもとに調整をするかしないかを悩んで月に2回以上検査を繰り返すことがある。保険で査定されて赤字なので憂鬱だ。

ところで、そんな慢性心房細動患者で、VT既応があって、狭心症持ちで心カテ中に心停止まで来たしておきながら蘇って久しい患者が 『先生、死んでもいいから船旅に行きたい』と言い出したことがあった。

 

『先生、もう家内と二人で申し込んじゃった。120日のクルーズ・・・大丈夫と言って下さい。今度、診断書と健康調査書を持ってきます。死んでもいいから行ける様に無難に書いて下さい』と涙目で懇願された。

同行する船医も当然ながら居るそうだが、訪ねてもらったところ船内で「ワーファリン管理」は不可能だという。急患はヘリコプターで運べる場合は運ぶというが・・・

幸い、この患者のPT-INR は極めて安定している方だったので、しかも狭心症もVTもホルターなどで問題なさそうに落ち着いていたので、『死んでも知らないよ、僕は・・』と言って送りだした。『もしワーファリンが効かなくなって脳塞栓を起こしたり、効き過ぎて出血で難渋しても僕は知らないよ・・』と脅したが、世界一周クルーズの魅力と命を引き換えにしたのだろう。その気持ち、かつて旅好きだった僕もわからないではない・・・行かせてあげよう、船上で死ねば本望だろうから。

 

で、忘れた頃に日焼けした元気な顔でその患者が現われた・・・ 旅行後のワーファリンの効き具合はバッチリだった。お土産を頂いたが、その嬉しそうな笑顔で僕は充分だった。

「死ななくて良かったですね。で、どんな医者が同乗してたんですか?」

『前半が皮膚科のお医者さんで、後半は産婦人科のお医者さんだった様です。まあ、なにかあったら死んでたでしょうね、ハッハッハッ・・・』

 

まあ、この10年間 一泊以上の旅行をしたことがない僕の様な医者もいれば、仕事がてら豪華船旅を楽しめる医者もいて・・・嫉妬を通り越して凄く憂鬱な気分になる。

で、「開業医の憂鬱」なる軽いウツ状態に陥ってしまっている今日この頃のM先生でした。

タヒチボラボラ島を眺めながらデッキで隣に絶世の美女を侍らせ、スィートルームで昼下がりの情事を楽しむ・・・・そんな夢を今夜見たいものだ。

 

読んでくれてどうもありがとう