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Back To The Street ふろむ診療所

最期の言葉(2)

まだごく最近の出来事であるのだが、こんな事があった・・・(個人情報がわかりにくい様に少しかえていますが)

忙しい午前の診療中に、事務嬢が「警察署の刑事課から先生にお電話なんですが・・・」と伝えてきた・・・何だろう?と思いつつ電話に出た。

セクハラ問題起こした覚えもないし、誰か患者のことだろうか? 何か事件を起こした患者の話なのか、それとも事件に巻き込まれた話なのか? あるいは、異常死や医療事故(俗に言う医療ミス)で僕に何か疑いの眼が向けられているのだろうか? それとも、家族の誰かが「資産家目当ての犯罪」にでも巻き込まれたのか? あるいは、更に悪い話なのか・・・?? 

毎度のことであるが、警察署からの電話は実に心臓に悪い。これでもし僕が心臓発作でも起こしたら警察は業務上過失致死で訴えてやる・・・死人に口無しではあるのだが。

 

話を戻そう・・・ 刑事さんが言うには、≪@@さんが昨夜心肺停止状態で発見され死亡確認されたのですが、M診療所の初診日と病名、最近の状況・考えられる死亡原因などを出来るだけ詳しく教えて下さい≫とのことだった。

その亡くなった@@さんは85歳の女性で、同じ歳の夫と二人仲良く、もう14年間もの長きにわたって当院に通院していただいていた。そして、最期に診察したのは・・・なんと前日だったのである。つまり、診察した晩に心肺停止状況で夫に発見された様だ。

不思議なことに刑事さんは詳しく死亡時の状況などを教えてくれなかったのだが、もしかしたら、診察当夜の突然死であったため、僕の「医療ミス」を疑って詳しい話を避け、トラップをかけたのかもしれなかった。しかし、その翌日に別世帯で暮らす子供さんが来院され、当日の状況を詳しく話して下さった・・・

 

@@さんご夫妻は高齢者だけの二人暮らしで、昼は時々ヘルパーさんを利用する要介護夫妻でもある。大変仲がよくて、死亡当日も昼過ぎに当院から帰宅した後は体調もよく、夕食を二人で食べ、いつものように二人で仲良く入浴し、いつもの様に夫が先に風呂を出たのだが、なぜか妻の@@さんはいつものようには風呂から出てこなかった・・・ そこで心配した夫が風呂に戻ると、既に@@さんは心肺停止の状態だったという。

 

これまでに患者さんの入浴中の突然死は3名ほど経験したが、司法解剖やAI診断など無縁だったため、いずれも正確な死因は不明であった。@@さんも、直前まで普段通りで、刑事さんに聞かれても死因は推測・断定出来ないものだ。主治医を疑う不審死とでも感じたのか、あるいは司法解剖を回避したため詳細な主治医の意見が必要だったのか、刑事さんの真意はいまもまだ判らないが、その後の事情聴取の要請が無いので医療ミスの線は消えたのだろう。

 

そこまでは時々ある話なのだが・・・実は死亡当日の@@さんの来院・行動は普段と少々違っていたのである。

この14年間、一時期に夫が半年ほど入院した時を除き、いつも@@さん達は二人でキチンと2週間毎に通院されてきた。ただ、少し認知症が出始め、また身体的にも加齢変化が強くなって、今年になって数カ月間通院されなくなったことがあり、身体的にも精神的にもガタガタになった時期があり、再度通院を開始した後は、毎回子供の誰かが付き添って来院されるようになり、家庭内での服薬管理も正しく行われ、見る見るうちに元の姿に回復していったのである。子供さん方との交流も復活し、@@さんご夫妻も嬉しそうであった。

しかし、死亡当日の最期の受診は・・・予定外の日だった。

 

まだ数日間の薬が余っており、受診予定で無かったので子供さんも居なかったのに、ヘルパーさんの姿を見るや、「是非いまからM診療所に連れて行って。是非いまから・・・」と言われたらしく、初めて子供さんではなくヘルパーさんとの来院となった。しかも、この14年間の通院で初めて・・・時間外である「昼休み」の受診をされたのである。

たまたまその日の「昼休み」は、別の診療所から紹介受診された患者さんが当院の診療時間を知らずに来院されて延長して診療していたので、普通なら「体調が悪くないなら午後から来てね・・」と断るのだが、付き添いのヘルパーさんも時間の都合もあろうから・・と、@@さん夫婦の診察を初めて「昼休み」に行ったのである。

ヘルパーさんも「すみませんねぇ、お昼休みで。薬も残ってるし、体調も普段通りなのにどうしても今からM先生の所へ連れて行ってと強くせがまれたので・・・ごめんなさいね」と恐縮されていた。

本人たちを診察しても普段よりもむしろ元気なくらいだし、どう考えても昼休みに来院する必要もなさそうだったのに不思議に感じたが、年寄りには親切に・・・と、透析室の回診をスッポカシて紹介の新患さんと@@さんご夫妻を診察した。そして、「先生、いつもありがとうございます・・・ありがとうございます・」と、いつも以上に満足そうに、いつもよりもニコヤカな顔と足取りで帰られたのである。そして・・・・その夜、突然お亡くなりになった。

 

刑事さんの電話の後で、看護師やスタッフ達に、「最近、こんな話が不思議と続くよね。なんか俺、ヤバイかも。お祓いにいこうかな? 一体医者として良いことなのか、悪いことなのか・・・ でもビックリするよね、どう思う?」と問うと、笑顔で『先生に会いに来たんでしょう、多分。でも、この前の**さんもそうだけど、先生が患者さんに好かれてるということだろうし、良い方に考えて下さいね。気を取り直して下さい。それにしても、昨日はあんなに元気だったのに。断らず、昼休みに診てあげて良かったじゃないですか・・・』と口々に言ってくれた。

以前話題になった「ピンピンころり」を絵に書いた様な死で、それなりに苦しまずご家族も納得の死でもあるのだが、患者の「最期の言葉」は、主治医として大切にしたいと思っている。

まだ、お亡くなりになったという実感は湧かないのであるが・・・