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Back To The Street ふろむ診療所

ある患者の死

土曜日の忙しい朝の外来の最中、警察署から電話が入った。個人的に気の弱い僕はなにも悪いことはしていないし出来ないので、何の電話かはおよそ察しはつく。ほとんどが通院患者が逮捕されて拘置所に止め置かれている時の定期薬の処方依頼か、あるいは通院患者の検死依頼かのどちらかである。

そしてこの日の電話は検死依頼の方だった。

亡くなった方は開業以来ずっと16年間に渡りご夫婦で通院して下さった95歳の男性で、2日前に感冒と思われる症状で診察したばかりだった。本人は花粉症かな?と言われるくらいで重篤感など無かったが、翌日のデイサービスを咳が出るようになったとの理由で休まれていたので、それが持病の狭心症に影響しての突然死になったのかもしれない。

柔和で95歳ながらまだまだお元気な足取りで認知症とも無縁、狭心症も処方を変更して以降は10年近く無症状で週に三度のデイサービス利用が2年前に奥さんを亡くされてからの楽しみだった。

とっても忙しい外来だったが、待合室にいた10名程の患者さん達に「僕は今から警察の車で出かけるから薬を処方しておきますが予定してた検査はまた今度ね・・」と説明して迎えに来た捜査車両に乗り込んだ。無診療診察のグレーゾーンではあったが警察と一緒なのでお咎め無しと願いたい。

正確には最近は95歳の独居老人ではあるが、毎日のように3人の子供達が日替わりで父親の世話に来られていた。長男は東京から頻回に帰郷され、他の子供達も熱心に親の世話をされていたことは、亡くなった奥さんの入院の際の面会相談で、家族の人となりなどを充分に把握していた。

その老夫婦の性格の良さがそのまま子供達性格の良さに繋がり、その子供達の暖かな気持ちがますます老夫婦の体調や精神状態を安定させて日々の暮らしを価値あるものにしていたと思う。

高齢者の健康状態を大きく左右するものに「家族問題」が間違いなくあると思う。往復の捜査車両の中で警官と道々話をしたが、家族問題はその若い警察官も深刻な状況を良く眼にしていたらしい。同居しない息子夫婦、同居しても他人の様な家庭ない別居生活の二世代・三世代住居。これでは決して「家族」ではないし、亡くなった95歳の様に瑞々しい肉体も穏やかで笑顔に溢れた顔の表情は生まれにくかったであろう。

風邪症状をほんの3日ほど患って深夜にベッドの中で穏やかな突然死を迎えられた95歳。その朝も東京の長男さんが滞在して遺体を発見された様子だが、検死を終えてお会いしてお話をした時も満足そうな表情に思われた。

それは主治医の希望的な感情にしか過ぎないだろうが、ある意味でピンピンコロリの大往生は理想の死の姿ではないだろうか?

温かな家族に囲まれ最期の日々を過ごし、最期の最期は眠りながら往生していく理想の死を迎えた患者の肌に触れお顔を見つめ、合掌して最期に別れをして、この16年間のご夫婦のお姿や声を想い出していた。

久々に患者の死に接したが、少しばかり羨ましく思われる家族関係と患者の死、人間の死だった様に思う・・・

でも決してこれは他人の話、患者家族の話だけではないのだ・・・

読んでくれてどうもありがとう